霧とリボン
愛書家のための小間物ブランド《霧とリボン》のブログ
DATE: 2014/12/28(日)   CATEGORY: ESSAY
2014洋楽ライヴベスト10、今年の一曲、今年の一冊
 霧とリボン、今年のテーマはRock!
 ということで、2014年に観た洋楽ライヴのベスト10を決めてみました♪

[洋楽ライヴ ベスト10]
10. Phoenix
2014.8.16 サマーソニック SONIC STAGE
Arctic Monkeysが終わってからの移動で途中から鑑賞。アートな演出、ポップでありながら骨太ロックなアレンジと演奏、そして何より孤高の祝祭感が最高にクール!

9. Savages
2014.1.22 LIQUIDROOM
完璧の一言。一糸乱れぬ美の一夜。

8. Lorde
2014.7.29 品川プリンス ステラホール
カリスマ性では他の追随を許さない女神の降誕。ラファエル前派の乙女のごとき豊かな御髪をたずさえ、現代の地に舞い降りた十番目のムーサ。

7. Foals
2014.2.25 EX THEATER ROPPONGI
変則リズムで職務を遂行、職人五人男の10年代への殴り込み。圧巻はアヴァンギャルドなグルーヴ感“Providence”から静謐なるミニマリズムが重層してゆく“Spanish Sahara”への流れ。Foals此処に極まれり!

6. The Garden
2014.6.6 原宿ASTRO HALL
罪深いまでに麗しい美青年双子によるベース兼ヴォーカル&ドラムのツーピースバンド。ライヴではツーピースゆえのシンプリシティとツーピースとは思えない煌びやかさがせめぎあう。サン・ローランのキャンペーンに使用された“What We Are”は、コクトー『恐るべき子供たち』を彷彿とさせる密室的遊戯性に彩られた彼らの世界観を象徴する一曲。

5. blur
2014.1.14 日本武道館
人間における追憶の重さは超ド級な点で順位付け不可能な一夜。自宅を出てそのまま飛行機のって武道館立ってます的ゆるゆる感がナイスです(特にグレアム)。ブロマンスも健在!

4. Disclosure
2014.5.15 studio coast
唯一無二の鉱物感覚、クールなA感覚、往年のアシッドとは決定的に異なる清廉なる陶酔感! 葉桜はまだまだ先の美兄弟伝説。

3. The Drums
2014.12.8 LIQUIDROOM
痛みを伴う世界の尖端に立ち続ける孤独、そのバルネラブルな世界が森(Mountain)の鬱蒼に守られている抒情。私にとって今一番The Smithsの世界に直結している音楽。ポストパンクな“Magic Mountain”は音的には新境地であり(というより、内に在ったリズムが浮上してきた?)、詩世界としては意識的に少年だけの王国へと歩みを進めた一曲。LAにThe Gardenあり、NYCにThe Drumsあり。

2. The 1975
2014.2.4 赤坂Blitz
一個の星が誕生したかのごときアンコントロールなカリスマ性の爆発。おろしたての石鹸のような清潔感、いや、もはや無菌感をまとった新世代の不良少年マシュー君。彼のノーブレスの行く末を見届けたい。そして、2015年ライヴ初めはThe 1975!

1. Arctic Monkeys
2014.8.16 サマーソニック MARINE STAGE
この瞬間を体験するために生を繋いできた、と断言してもいいすぎではない凄まじい密度を持った美の襲来。ティボルトのごとき休止符までが決まっている男、アレックス! 圧倒的な美を受け止めきれない己の未成熟を厳粛に受け止めた日。その顛末か、マット仕様のスティックを英国から取り寄せる悲哀……♪


[番外編]
フィリップ・ジャルスキー&ヴェニス・バロック・オーケストラ
2014.4.25 東京オペラシティコンサートホール
Arctic Monkeysと同じ位たましいが震えた一夜。2014年3月発売の《Farinelli & Porpora-his Masters Voice》はジャルスキーさん自身のみならず、世界に亀裂を与えた一枚。そして、この一曲。「しかもなお雨、ひとらみな十字架をうつしづかなる釘音きけり」……塚本邦雄『水葬物語』より


[今年の一曲]
The 1975 “Robbers”
2014.8.16 サマーソニック MARINE STAGE
夏の夕暮れ、マシュー君のホワイトジーンズ、そしてRobbers。少年のアルカディアへの熱情と倦怠。
『アナザー・カントリー』1930年初頭、夏。『ブライヅヘッドふたたび』セバスチアンとの夏。『ソネット集』の夏……。書物の中でしか出会えなかったアルカディアの「夏」、狂おしい程焦がれつつも見知らぬものであった「夏」、追憶の中でしか生きられない「夏」。この曲を再生すれば、いつでもあの「夏」に出会い、帰ることができる。


[今年の一冊]
大串祥子写真集『美少年論』(佐賀新聞社)
写真家が命を賭した一冊、その重さは玲瓏なる視線を守り抜いてきた重さに他ならない。そして、写真家を知る遥か昔から、この一冊を待ち続けてきた事実をその重さによって知る。言葉を喪う程の奇跡の中の奇跡。
Bishonen.jpg
写真は『美少年論』特装版



今年も素晴らしい美に出会えた1年でした。

皆様、どうぞ良い御年をお迎え下さいませ。

page top
DATE: 2014/08/21(木)   CATEGORY: ESSAY
少年性を追った夏〜サマーソニック2014
 サマーソニック初日へ。

SS_sky.jpg

 スタジアムの円形に縁取られた天井画のような空。刻々と表情を変えてゆく美しさと共に大好きな音楽を堪能する。夕暮れへと向かう空の肌理のなんたる美。灰色の雲が覆い、雨をもたらし、やがて雲間から光が射し虹が弧を描いて……


 The 1975は《Robbers》が特に素晴らしく。夕暮れ前の夏の午後、少しの倦怠が頬を過ぎるようなメロディライン。物憂い空に浮かぶ雲のグレイに少年の憂鬱を見る。

☆Robbers☆


 マシュー君のカリスマ性はスタジアムの広さをものともしない煌めきがあったけれど、開放的なステージのリラックス感も手伝って、一個の星が誕生したかのごときアンコントロールなカリスマ性の爆発は今年2月の赤坂BLITZの方が凄まじかった。不良少年のノーブレスは変わらず漂う。

 デビューが遅かったためなんとなく二十歳ぐらいのイメージだけれど、ボーカルのマシュー君は1989年生まれの現在25歳、Arctic Monkeysとほぼ同世代である(アレックスは1986年生まれの28歳)。この事実を思うと尚のこと、The 1975の新しさに驚愕する。実力的にも存在としても現時点ではArctic Monkeysが格上であることは歴然としているけれど、The 1975の前ではArctic Monkeysでさえ英国音楽史の上にお行儀良く存在している普通っぽさがある。

SS_1975.jpg
The 1975のfacebookより引用

 マシュー君は新時代の不良少年である。連綿とあり続ける「Sex, Drugs and Rock & Roll」から意図せず分断された不良少年に思えてならない。音楽少年たちから否が応でも立ち上る(個人的にとても苦手な)ロック臭がなぜかまったく感じられないのだ。不良少年でありながら澄み切った清潔感、いや、無菌感と言い切ってしまってもいいぐらいの清廉が身体を覆っている。今回のホワイトジーンズがまたこの感触を眩しいまでに加速させていた。

 この無菌感はいったいどこからくるのか。我が妄想も加速する。

 男性の声変わりについてパスカル・キニャールは書く。
 「声において生ずるこの翳りが少年を定義し、この翳りによって、少年は、少年という状態から成人した男という状態に移行する。男とは、翳りを帯びた者、翳りを帯びた声を持つ者だ。彼らは自分の咽喉から消えた小さな鋭い声を求めて、死ぬまでさまよう。」(『音楽のレッスン』吉田加南子訳・河出書房新社より)

 マシュー君にはこのような普遍的な男性性は今のところ、何処を探しても見つからない。「小さな鋭い声」は今もなお身体に留まり続け、彼を捕え、その少年性の牢獄に彼自身が蝕まれている。さらに、その少年性がどこかしらフェミニンなムードを帯びている様もまた特異だ。…そう、彼のセクシーさは彼自身がこの身体に戸惑い、持て余しているところにある。それを払拭しようといくらタトゥーを入れても肌はよりいっそう輝きを増すばかりでちっとも「Sex, Drugs and Rock & Roll」に至らない。

 「成人した男」の刻印を纏えば纏う程、内なる少年性が皮膚を透過して光を発する。比喩ではなく、ステージ上で彼は本当に光を放っている!……おお、なんたる悲哀であろう! この、「成人した男」に移行した形跡がまったくみられない皮膚や骨格が無菌感を生んでいるのだろうか…。「女の子が大好き!」とキュートに公言するマシュー君ではあるが、PVなどでの女の子とのショットはどこか居心地悪そうで、人を寄せ付けない生来の孤独がまた無菌感を呼び込むのだ。

☆Chocolate☆


☆Chocolate☆

 かようなマシュー君のカリスマ性に飄々と、ノンシャランに並列するバンドの風景は実に新しい。ロケンローな気負いがないところも彼らの音楽性にフィットしていてとても素敵だ。CDジャケット、SNSに公開するモノトーン写真からライヴの告知ポスター、テキスト原稿(スラッシュ、半角アキの大文字のみ)に至るまで、ヴィジュアルコントロールが完璧になされているところもまた素晴らしい。

SS_1975_2.jpg
ライヴの告知は毎回このフォーマット。美しい……
(The 1975のfacebookより引用)


 少年性の行方をこれからもつぶさに見届けてゆきたいものである。



 そして、涼しさと共に全てを吸い込む闇が訪れた。いよいよヘッドライナー登場である! AMの波形も無事来日。

SS_AM1.jpg

 Arctic Monkeys、全てが吹き飛ぶぐらい凄かった!

 ベストは《Brianstorm》のイントロ。AM仕様のテンポ遅めではなく、AMを通過してもう一度2ndに戻ったような重量級で最速の疾走感にたましいが底から燃え上がった。

☆Brianstorm☆

こちらはテンポ遅めの渋く大人っぽいアレンジ

 ハードな音作りだけれど決して骨太ではない。グルーヴもうねるようであるが音の質感はあくまでもドライ。そして一番好みなのは、音世界の一番奥に、ほんの少しでもバランスを崩せば切れてしまうようなバルネラブルなワイヤーがピンと張られ、少年期からの痛々しいまでの過敏な神経が在り続けていること。この点、The Clashを思わせる。

 《Brianstorm》のイントロでそのワイヤーが切れる寸前まで張られ、完璧に同期した4人の呼吸が組み手の間合いのような絵面を描く。この呼吸にスタジアム全体が飲み込まれる。少年性の隠れ家たる禁断のワイヤーに直に触れた瞬間である! おおげさではなく、この刹那のために幾星霜、生を繋いできた、と断言できる程の体験であった。

☆The Clash“London Calling ”

 パンク以降の英国音楽が好きなのは、マチヅモから離れた少年の繊細さがあるから。それが90年代に入りOasisの登場でいったん途絶えたように(私には)思えたけれど、やはり繋がっていたのだなぁ…とArctic Monkeysを観て。そして10年代、マシュー君を筆頭に英国音楽青少年たちの繊細ぶりはただ事ではない様相を呈している。

 《Brianstorm》が超高速だった分、次の《Don't Sit Down Cause I've Moved Your Chair》がより重く、渋く、深く響き渡り、この奇跡のような展開に気絶寸前であった…。

☆Don't Sit Down Cause I've Moved Your Chair☆

 野外のスタジアムでコンサートを鑑賞したのも初めて。「スタジアム級のバンド」がどういうものか、単なる動員数ではない彼らの強度に鳥肌がたった。いまある世界がこの一点に収斂したかのような凄まじい音の密度、この光景を形容する言葉はこれから先も見つけることはできないだろう。若さ故の勢いそのままに成熟をはじめたバンドの苛烈な温度感を直に浴び、それを跳ね返すパワーにまったく欠けている自分を発見し、愕然とする。(……ゲツセマネの園でイエス様を前に弟子たちが寝ちゃったのってきっとこれだと思う。受け止めることができなかったのだ。) 英国で彼らのようなバンドが生まれるのはミュージシャンの層が厚いだけじゃない、聴く側にその極限の美を受け止める用意があるからだと思い至る。

☆Crying Lightning☆

もっとも好きな楽曲のひとつ。ジェイミーのどこか不穏なギターラインも美しい…

 アレックスのセクシーさもまた極限であった。残念ながらリーゼントというよりオールバックだったけれど、御髪が乱れた時の横顔の美しさはもはや罪である。乱れた髪をコームで整える様もサイコーにカッコつけててGood job。まさに休止符までが決まっている男、ティボルトのようであった。さらなる美の加速を期待したい。

 英国音楽をほとんど聴かなかった00年代。そのブランクにArctic Monkeysがいたわけだけど、その空白を燦然と充填してくれただけでなく、90年代と10年代を最高のかたちで繋いでくれた。迷子の追憶を一閃の美しい光が貫き、あるべき場所へとそっといざなってくれた狂おしい程完璧な一夜であった。



 80年代、思春期のほとんどを英国音楽(主にThe Smiths)に捧げた。おそらくこの時初めて「少年性なるもの」を発見し、その謎めいたものがたましいに根を降ろした。英国音楽を聴き続けることはとどのつまり、姿を変えて生き続ける少年性を追い求めることなのだろう。つくづく、一日でいいからエディ・スリマンになってみたいものである。

SS_Smiths2.jpg
The Smithsのファースト・シングルとファースト・アルバム


 まだ見ぬ音楽の中の少年たちに……


SS_sky3.jpg





page top
DATE: 2014/08/14(木)   CATEGORY: ESSAY
舞台《ウォー・ホース〜戦火の馬》
 2014.8.13 東急シアターオーブ

 英国のステージと児童文学の底力にたましいが震えたひととき。繊細精緻な馬の表現、戦場の陰惨と孤独、スローモーションによる戦闘シーン…… 生の舞台でここまで表現できるのか、とただただ圧倒された一夜でした。

WH_stage.jpg


 《ウォー・ホース》は何より、人間の勝手な都合で生を翻弄された数多の馬たちへのレクイエムとして在る。通奏低音として貫かれるイングランド民謡風の歌が折々で肌理を変化させながら響き渡り、劇場全体が祈りの風景と化す。共に祈りを捧げることができたことを幸いに思う。



 そして、写実とは何か、リアリズムとは何かを深く考えさせられる作品でもあった。ハリウッド的なリアリティの追求(これはこれで好き)には追随しない気概。見る側の想像力があってはじめて完成するリアリティ。この表現が生まれ出るために要した途方もない歴史の厚みに頭が下がる思い。(自明のことであろうが)観客を低く見積もらない真剣勝負もまた嬉しい。闇の階調の豊かさ、陰影の美しさにも息をのんだ。

 歌舞伎を彷彿とさせる舞台演出も所々に。人が黒子になって鳥飛ばしたり、だんまり的なスローモーションとか、絵面の見得とか。歌舞伎のリアリズムってやっばり凄いなと思い至る。アヴァンギャルドで超クールである。この希有なるリアリズムが何故現代的な進化を遂げなかったのか、つくづく不思議で残念に思う。

 馬と人間が作り出す美のひとつの頂点たるジンガロの公演《ルンタ》(2005年)も思い出した。吸い込まれそうな沈黙と静謐が、昨夜の舞台にも形を変えて漂っていた。この時も確かガチョウたちが登場していたけれど、馬とガチョウってセットなのかしら…。何につけ、賭をしたがる英国人にも苦笑。動物といえば、勅使川原三郎さんの舞台《ラジ・パケ》(2002年)もありました。

 観劇後は愛する銀座ウエストへ。美味しい紅茶を頂きながら舞台について腹心の友と語らい、帰宅。

WH_west2.jpg


page top
DATE: 2014/08/02(土)   CATEGORY: ESSAY
Lorde〜現代に舞い降りた十番目のムーサ
年を経ても不滅な「髪」は、
王女が喜びとし誇りともした純潔よりも、
更に長く生きながらへてゐたのだつた。


……ルネ・ヴィヴィアン「髪」(白鳥友彦訳)



Proserpine.jpg
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ《プロセルピナ》


 ラファエル前派の乙女のごとき豊かな御髪をたずさえ、現代の地に舞い降りた十番目のムーサ、Lorde。2014年7月29日品川ステラボール、17歳のステージは圧巻の一言!






 ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップス時代のルイーズ・ルカヴァリエに匹敵する圧倒的なパフォーマンス。ひとりのミュージシャンであることを越え、依り代として存在することを宿命づけられているかのよう。犠牲を払うことを強いられた哀感が翻る漆黒のシフォンマントに濃く、深く、塗り込められていた。


映画《ベラスケスの小さな美術館》(1994年)より

金髪の女性がルイーズ・ルカヴァリエ


 Lordeより好きなミュージシャンは数あれど、この桁外れの存在感は比類がない。数多の舞踊手や振付家が存在したのはかような身体表現をこの世に出現させるためだったのかもしれない……と思わせる程の神秘性。希望を一身に受けた煌めきの重さにLordeの宿命を見る。表現とはやはり、決してひとりで完結するものではなく、預かり知らぬところで豊かに巡ってゆくものなのだ……とリアルに迫るものがあった。名を持つ一輪のための、名も無き無数の花たちを想い、胸が熱くなった。

 楽曲の完成度も高く、アレンジメントも非常に臈長けている。エッジーで最高にクールである! 知性と野性が際どくせめぎあう持ち味は生のステージでこそ発揮される。ファム・ファタール的なムードからは遠いところにあるモダニティもイマドキである!

 
Disclosureとのコラボレーション“Royals”


 
page top
DATE: 2014/07/09(水)   CATEGORY: ESSAY
追憶、ちひさな文藝キャバレー《霧とリボン》
  去る六月の清々しい初夏の一日、ご婦人限定のお茶席「ちひさな文藝キャバレー《霧とリボン》」を開催致しました。

BC_11.jpg
お客様を待つやさしい光……(PHOTO:Fumie Katsuki)

BC_12.jpg
(PHOTO:Fumie Katsuki)
BC_35.jpg
バルテュスのリトグラフ“Dessins”(1994年・64/150)(PHOTO:KIRI to RIBBON)

 vol.3の今回は「バルテュスの少女たち、音楽の少女たち」と題し、音楽ライターの高野麻衣さまを女主人としてお迎えした美術と音楽のサロン。装い美しいご婦人方がひそやかに扉を過ぐる倦怠の午後、そして宵…… 忘れられないひとときとなりました。

BC_24.jpg
霧とリボン・チャイナドレス・コレクション、
英リバティ生地で仕立てた20風のクラシックな一枚を
この上なく美しく着こなす我らが女主人
画家とモデルの部にて(PHOTO:Fumie Katsuki)
MsT_02.jpg
女主人の美しいお手元
霧とリボン《ガントレット・ブローチ》(左)と
《アリスの指輪〜ミドル・フィンガー・ブローチ》(右)を身につけて……
(PHOTO:Fumie Katsuki)

BC_31.jpg

 いったいいつの頃からでしょう……英国の小説や映画に登場する「ジェントルマンズ・クラブ」に憧れるようになったのは。吉田健一氏はご著作『英国に就て』の中でこう記しています。

 「つまりクラブというのは、男しか出入りしない場所であるのが普通なので、それが英国のクラブの空気をどれだけ新鮮に、或いは落ち着いたものに、或いはまた、不思議に温かなものにしているかは、そう簡単には説明できない。」「男だけの世界がどんなに清潔なものか、英国のクラブに行ってみなければ解らない」

 ……解りたい! と願いました。

 小説や映画で空想するだけでは物足りないわと「婦人俱楽部《霧とリボン》(2008年)」を結成(実はあまり盛り上がりませんでした…)。その後開催したのが「ちひさな文藝キャバレー《霧とリボン》(2009年)」です。殊に、英グラナダTV版《シャーロック・ホームズ》に登場する「ディオゲネス・クラブ」が大好きだったので、ご婦人版ディオゲネス・クラブを気取って。

holmes.jpg
目指すはホームズの世界

MrsD_MsMori.jpg
ヴァージニア・ウルフ『ボンド街のダロウェイ夫人』をテーマとしたお茶席
「ちひさな文藝キャバレー《霧とリボン》vol.2〜手袋とミントの葉」
(2009年6月 at Vanilla Mania)
人形作家・森馨さんが女主人をつとめて下さいました


 そうして月日は流れ、英国から最大級の贈り物、そう我らが《シャーロック(BBC制作ドラマ)》が届いたのです! こちらでも「ディオゲネス・クラブ」が愛すべき場所として美しく、そしてウィットたっぷりに描かれており、文藝キャバレー再開への気分が高揚してきました。おりしも『花園Magazine』のガーリエンヌ様に当ブランドを取材頂いたことがきっかけで、等しくシャーロック・ホームズを愛する音楽ライターの高野麻衣さまと知り合うことができ、「女主人発見!」とばかりにご婦人版ディオゲネス・クラブ再スタートの設計書がブルース・パーティントン並みに完成した次第です。

BC_02.jpg
(PHOTO:Fumie Katsuki)

 こうしてようやく、文藝キャバレーの一日を迎えることができました。



……食前のドリンク……

ミントのドレスを纏ったSweet Maiden
“Drink Me!”
ラズベリーと薔薇のコーディアル炭酸水
フレッシュミント入り

BC_18.jpg
(PHOTO:Fumie Katsuki)

バルテュスの少女たちにちなんだメニュー


……初夏のささやかな午餐/晩餐……

カティアがお出かけに着てゆく
少女のドレスのひとくちサンドイッチ
赤ピーマンのムース入り

フレデリックの居る窓辺から届いた
初夏のスコーン
2種
クロテッド・クリームとマーマーレード添え

テレーズの食卓より
ハーブ入り野菜料理
2種

BC_20.jpg
(PHOTO:kaori nakamoto)
BC_29.jpg
少女のドレスのひとくちサンドイッチ(PHOTO:kaori nakamoto)
BC_27.jpg
(PHOTO:asumi.h)

 初夏のささやかなお食事の後、高野さまによる仏蘭西詩の朗読と蓄音機演奏を。やや翳りを帯びた美しい声で紡がれるピエール・ルイス(鈴木信太郎訳)「ビリチスの歌」とポール・ヴェルレーヌ(永井荷風訳)「ましろの月」、長い眠りから覚めたように歌われる仏蘭西歌曲(ドビュッシーとレイナルド・アーン)……倦怠の午後にふさわしい少女たちの競演でした。

BC_25.jpg
(PHOTO:Fumie Katsuki)
BC_30.jpg
メニューカード、刺繍糸で糸縢りしたプログラム(PHOTO: KIRI to RIBBON)



……紅茶……

おかわり自由
お好みでフレッシュミントを添えて
夏摘みのさわやかな紅茶
TEA PALACEのダージリン・セカンドフラッシュ



……Casketに詰めた洋菓子“Eat Me!”……

カティアが初夏のお庭で摘んだ
お花のチョコレート

テレーズの春の想い出を閉じ込めた
菫のマカロン

画家とモデルにひとつずつ
ひとくちゼリー菓子
2種

画家のアトリエのおやつ
ひとくちパイ

雨粒型の木の実のせ
アーモンドのクッキー

BC_16.jpg
(PHOTO:KIRI to RIBBON)
BC_22.jpg
書物を紐解くように、洋菓子の小箱をひらいて……(PHOTO:Mio Soda)
BC_28.jpg
(PHOTO:asumi.h)


 続いてクープラン《神秘的なバリケード》、ラモー《タンブラン〜村娘》、そして宝塚歌劇レビュー《花詩集》の蓄音機演奏。「少女」にちなんだ選曲、高野さまによる音楽史を起点とした興味深いお話にお客様の瞳もますます輝いて…

BC_32.jpg
絹糸タッセルが揺れる英国20年代製の蓄音機(ヘンリー・シーモア社特注品)
CB_33.jpg
ターンテーブルは染め抜き雲模様の絹張り、この悪趣味ギリギリ感が最高!
きっと、シノワズリー趣味の美青年貴族が持ち主だったに違いない…
と想像をかき立てられる逸品



……冷たいグラスのデザート……

梅雨の晴れ間のように清々しい
キウイのゼリー



清楚という花言葉持つハーブ水

BC_19.jpg
ミント、ゼリー、初夏の色……(PHOTO:kaori nakamoto)


BC_04.jpg
お食事と談話を楽しむテーブルの華やぎ……(PHOTO:Fumie Katsuki)


 菫色のシフォン越しに西日が射し込み、夕暮れの諧調美しき頃、読書するカティア部(夜の部)がはじまりました。

BC_07.jpg
(PHOTO:Fumie Katsuki)

BC_10.jpg
読書するカティアの部では
昭和モダンの清楚なチャイナドレスにアリスのO・SA・GE ブローチを纏って
(PHOTO:Fumie Katsuki)

BC_08.jpg
(PHOTO:asumi.h)


 こちらのお席のお客様にはBBCドラマ《シャーロック》で使われていたAli Miller社の茶器をお出ししました。

BC_17.jpg
(PHOTO:Fumie Katsuki)
TeaSM.jpg
シャーロックとモリアーティのティタイム(画像はAli Millerのサイトより引用)

 「英国の食器も、それをガラス箱に入れて眺めるものであるよりは使い込まれて人間の生活に溶け込み、殆どその存在を消す為のものであってそこにも英国の文化に特有の優しさが認められる。」……吉田健一『英国に就て』より

BC_14.jpg
カトラリーは英国アンティークの純銀製
美青年貴族(希望)の花文字が刻印されています(PHOTO:KIRI to RIBBON)

BC_23.jpg
クリスタル、銀器、蝋燭の灯り……(PHOTO:asumi.h)

BC_05.jpg
バルテュスのリトグラフ“Dessins”(1994年・66/150)が飾られた一角
川島朗オブジェ作品《サチス荘の影(円環)・2012年》(上)
安蘭《恋慕・2008年》(下)と共に……(PHOTO:asumi.h)


 巴里のキャバレー「シャ・ノワール」に掲げられた標語「行き交う人々よ、モダンであれ!」をもじり、「扉を過ぐるご婦人たちよ、モデンであることなかれ!」の標語もかかげた我らが文藝キャバレー、これからもウィットたっぷりに、折々に素敵なテーマで開催できればと思っています。

 霧とリボンのブローチをお召しのお客様も多く、その美しきコーディネートにもうっとりのひとときでございました。お越し下さいましたご婦人の皆様、お手伝い下さったふみ様、そして華麗に女主人をつとめて下さった高野麻衣さまに心より御礼申し上げます。

 ご婦人の皆様、またひそやかにお会いしましょう♪

BC_15.jpg


「言葉を交す、そう、同じ沈黙に属していることを知るために。」
   ……ナタリー・バーネイ(小早川捷子訳)


 Curtain…

BC_34.jpg
改装前のアトリエギャラリー(PHOTO:Fumie Katsuki)


☆高野麻衣さま、画家とモデルの部に参加下さったセラフィム様と美雨さまが当日の様子を綴って下さいました♪

高野麻衣さま
→Salonette: LOG
セラフィム様
→小さな屋根裏部屋
美雨さま
→魔女の星屑散歩 タロット占い師 美雨のブログ
page top
DATE: 2014/06/01(日)   CATEGORY: ESSAY
六月の想い出
「人生、ロンドン、六月のこの瞬間がある」(丹治愛訳・集英社)
 
 ……そう、六月と言えば、ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』の季節! 六月を迎えるたび、この書物を鮮やかな心地で紐解きます。
 「ミセス・ダロウェイは、お花はわたしが買ってくるわ、と言った」(同前)で始まる長編(1925年)に先駆けて、ヴァージニア・ウルフは短編『ボンド街のダロウェイ夫人(1923年)』を発表、こちらは「手袋を買ってくるわ、とダロウェイ夫人は言った。」(川本静子訳・みすず書房)で始まります。

 昨秋の渡英ではダロウェイ夫人気分でボンド街を抜け、ハチャード書店の張り出し窓を眺めて参りました。

Book_H.jpg

それから——クラリッサはボンド街を通り過ぎ——ハチャード書店のそばに来た。
(中略)
なんてかわいい、と彼女は、張り出し窓の中で開かれている
回顧録らしい本の表紙を見つめながら、思った。
…(川本静子訳・みすず書房)


Book_H2.jpg




 本格的にブランドをスタートする前の2009年春、朗読と洋菓子を楽しむお茶席「ちひさな文藝キャバレー《霧とリボン》」を開催しました。「霧とリボン」のささやかな歴史はここからはじまります。第一回目のお茶席のテーマは『ふしぎの国のアリス』、同年六月に開いたお茶席は『ボンド街のダロウェイ夫人』、ひっそりと共有される物語のみずみずしさを味わいつくした大切な想い出です。

Mint1.jpg
子供時代を呼び戻すミントの葉たっぷりのノンアルコールカクテル
“Drink Me” 自家製グレープフルーツシロップの炭酸水
…『ボンド街のダロウェイ夫人』のお茶席より


 その後、お茶席のテーマとした二つの物語にちなんだ小間物を発表、現在に至ります。

TBH_AP_image.jpg
ティバッグのように包装された「ティバッグ・ハンカチーフ」

PB_CP.jpg
チョコバー型のメモ帳「Paper Bar〜チェシャ猫風味」

OA_M.jpg
アリスの「O・SA・GE ブローチ」




 そしてこの度、想い出深い六月に「ちひさな文藝キャバレー《霧とリボン》」を再スタートすることとなりました! 内容や形式は変わりますが、皆様にゆったりお楽しみ頂けるようなお茶席を開催する予定です。

 記念すべき今回は、敬愛する音楽ライターの高野麻衣さまを女主人としてお迎えし、バルテュスの絵画から連想する古き良き時代の音楽を蓄音機で鑑賞します。バルテュスのリトグラフが飾られた小部屋にて、音楽の魅力を風味豊かに伝えて下さる高野さまと共に素敵なひとときを過ごすことができましたらと思います。
 
 詳細やお申し込み方法は近日中にアップ致します。

 皆様のお越しを心よりお待ちしております。
page top
DATE: 2014/03/05(水)   CATEGORY: ESSAY
Ash Wednesday……灰の水曜日
lent1_12cm.jpg
十字架の道行きを描いた一枚

 今日は大斎始日、灰の水曜日(Ash Wednesday)。この日から司祭のストールや教会内の講壇掛け、敷布などがいっせいに菫色になり、慎みの季節、大斎節(Lent)の到来を告げます。

lent2_12cm.jpg

 昨年は、HOLON タイポグラフィ作品展《スクリプトリウム〜聖書の言葉を写し、纏う試み》の会期中に灰の水曜日を迎えました。*デザイン工房HOLONは《霧とリボン》の運営元です。

DM_SR.jpg
《スクリプトリウム》展DM

 展覧会では、シルクスクリーン、リトグラフ、写真作品、限定版書物、書体見本、約20点(全て新作)の他、HOLON設立当初から表紙・目次・扉デザインを手がけてきた『現代思想 臨時増刊号』(青土社)やプライベート出版物、邦楽家・西松布咏氏のために制作した舞台衣装(着物と帯/オリジナルアルファベット書体で綴った詞章を染めたもの)なども展示致しました。

HOLON タイポグラフィ作品展
スクリプトリウム
〜聖書の言葉を写し、纏う試み〜

2013.2.11[月・祝]〜16 [土]
13:00〜20:00
森岡書店
(日本橋茅場町)



「SCRIPTORIUM」とは修道院の写字室のこと
長きに渡り、修道士たちの手により
聖書の言葉は壮麗に写され、遺されてきました
私達は、アルファベット書体デザインを現代の写字法ととらえ、
文字によって多彩な情景を表現できるよう、
装飾を重視した書体制作を行ってきました
本展示では、文語訳聖書と欽定訳聖書(KJV・1611年)を題材に、
聖書の言葉を写し、衣服として纏う試みを定着させた
タイポグラフィ作品(平面・書物)を発表します

HOLON設立16周年を記念し、設立当初より
表紙デザインを担当してきた『現代思想 臨時増刊号』(青土社)、
プライベート出版物なども展示販売します



デザイン工房[HOLON]
1997年設立。ブックデザインを中心に、グラフィックデザイン全般に従事
1999年よりプライベート・プレス[Club Noohl]を運営、
限定版アートブックの刊行やオリジナル紙製品等も制作している
2013年、愛書家のための小間物ブランド[霧とリボン]設立


Ash_01_14cm.jpg
リトグラフ作品《Ash Wednesday》(2013)

 《Ash Wednesday》は灰の水曜日に捧げたリトグラフ作品。一見模様に見える図案は、オリジナルのアルファベット書体「セメタリー・ゲイツ」(下図)で創世記の一節「汝は塵なれば塵に皈るべきなり」がローマ字組みで綴られています。(つまり、「Nanji ha ……」)

CEMETERY GATES_14cm
オリジナル・アルファベット書体「セメタリー・ゲイツ」

Ash_02.jpg
リトグラフ作品《Ash Wednesday》(部分)

 灰の水曜日は大斎節の始まりの日、生と死に想いを寄せる日。礼拝では一年間大切にしてきた棕櫚の十字架を燃やし、その灰で額に十字架の印を受けます。その際、司祭が唱えるのが創世記の一節にちなんだ文言「あなたは塵から生まれたのだから、塵に帰らねばならぬことを覚えなさい」。

 書体「セメタリー・ゲイツ」は欧羅巴の墓地の鉄細工の門をイメージして制作。墓地の門はまさに生と死の狭間に位置する存在、創世記の一節を綴るにふさわしい書体として選びました。

Ash_03.jpg
上:《すみれとすみれのあいだ》(2013年・デジタル写真、銀塩プリント)
下:《夢のゆきかう薄明》(2013年・デジタル写真、銀塩プリント)

 上作品は、リトグラフ《Ash Wednesday》のモチーフである手袋を切り抜き、立体コラージュの感覚で配置、一発撮りした写真作品です。エリオットの詩 《Ash Wednesday》をテーマに、そのポエジーを表現すべく制作しました。タイトルもエリオットの詩からの引用です。



すみれとすみれのあいだを歩んだひと
さまざまな緑のさまざまな色合いの
あいだを
白と青の衣を、御母マリアの色を着て歩んだひと
永遠の悲しみを知らずして知りつつ
ささやかな事ごとを語らいしひと
人びと歩むときその者たちのあいだを動いたひと
噴水の力をつよめ泉の水をあらたにしたひと

…エリオット『聖灰水曜日』高松雄一訳
(『エリオット選集 第4巻』彌生書房・昭和50年刊)より


 2012年の大斎節は、聖トーマス教会合唱団&ゲヴァントハウス管弦楽団によるバッハ《マタイ受難曲》全曲を東京オペラシティにて拝聴しました。シュテファン・カーレ君の痛々しいまでに繊細なアリアは生涯ただ一度の珠玉。

☆聖トーマス教会《マタイ受難曲》/アルト:シュテファン・カーレ


憐れみたまえ
わが神よ、この涙ゆえに。
ここをご覧なさい
心と目が、あなたの前で
激しく泣いています。


 菫色の季節、慎み深い日々でありますように…


☆ザ・スミス《セメタリー・ゲイツ》



page top
Copyright © 霧とリボン. all rights reserved. ページの先頭へ