追憶、ちひさな文藝キャバレー《霧とリボン》vol.4

七月も今日まで。猛暑が続く日々、皆様おかわりございませんか。
霧とリボン 直営SHOP“Private Cabinet”の七月は、「ちひさな文藝キャバレー《霧とリボン》vol.4〜ヴェルレーヌに捧ぐ、アブサンと頽廃の午後」を開催致しました。

「牧神の午後」のフルートの倦怠のように物憂い暑さをよそに、Greenの薄明かりとペンハリガンの幽かな菫の香りをくゆらせ、頽廃の午後を待つ小部屋……



菫色の壁面には霧とリボン所蔵の美術作品を飾って……
(上より)安蘭《恋慕(2008)》/永井健一《白い花(2014)》
金田アツ子《黒百合》《アネモネ》
vol.4の今回は、ヴェルレーヌ詩によるフランス歌曲の蓄音機演奏と、ヴェルレーヌ研究に従事されていらっしゃる玉田優花子さまの詩の朗読に耳を寄せながら、アブサンをかたわらに、詩人の美しい頽廃世界を逍遥いたしました。

ドレス・コードは「頽廃」、それぞれの「頽廃」がヴェルレーヌの頽廃と重なってゆきます。
朗読者の玉田優花子さまは翳りのあるグリーンの諧調、少年性と淑女の洗練のアシンメトリーな頽廃が麗しく。画家の安蘭さまはパフスリーブが個性的、リトル・グリーン・ドレスにコルセット、モードな頽廃が煌めきます。ライターの畑菜穂子さまは薄色の柔らかなドレスにデュシャンの「遺作」的少女の指輪をノンシャランにコーディネート、アンビバレンツこそ、頽廃。ピアノ及びヴィオロン奏者のlumi様はロココ絵画のふんわりドレス、裳裾の陰影と胸元に揺れる霧とリボンのO・SA・GE ブローチが小部屋のGreenを頽廃的に照り返し……それぞれの上限なき頽廃はまさに淑女のウィットと洗練! 自称・頽廃執事の私は皆様の背景になるべく漆黒の装いで。(…ひそかに仏蘭西の香りを漂わせるべく、敬愛する方から受け継いだ、JUN ASHIDA巴里店でお求めになられたというアールデコ風のロングドレスに初めて袖を通しました)
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最初の一篇は、永井荷風が「ましろの月」と訳した「La Lune Blanche」。玉田さまによる仏蘭西語原詩朗読、蓄音機演奏、訳詩朗読の順に、ヴェルレーヌの一篇を味わい尽くす趣向です。
楽曲タイトルは「La Lune Blanche」の最終節から取られています。
[ソプラノ:ニノン・ヴァラン/ピアノ:レイナルド・アーン]
普段接する機会がほとんどない仏蘭西語による朗読……玉田さまによる囁くようなそれは、まるで詩が生まれた瞬間のようにみずみずしく、紙と筆記具が触れ合うかすかな擦過音のように密やかな、ヴェルレーヌの時代と現代がしずかにクロスするひとときでした。
朗読者とは、頁から文字をやさしく剥がし、すこしの傷や痛みをともなって、詩をわたしたちに届ける人……朗読者の声で編まれ、声のニュアンスで仕立てられてゆく詩。その詩を纏うことを許されたわたしたちは、その衣が綾なす模様や色合いを耳より先に皮膚で感じ、その肌理を胸の内に刻印してゆく……おお…なんという頽廃!
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フランシス・プーランクの自作自演《夜想曲 第一番》をはさみ、次の一篇は梅雨の長雨を追想しつつ、「Il pleure dans mon coeur」。
ドビュッシー作曲。文藝キャバレー当日の音源は
[メゾ・ソプラノ:クレール・クロワザ/ピアノ:フランシス・プーランク]
原詩、永井荷風の訳詩と共に、雨音の詩情に小部屋は包まれ……

ランボーとGreen……
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そしていよいよ、頽廃のアブサンの時間……
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Greenのアブサンが注がれたリキュールグラスにアブサンスプーンをのせ、角砂糖をセット、アブサン・ファウンテンから氷水が一滴一滴落ちてゆき、角砂糖を溶かし、アブサンのGreenを白濁させてゆきます……その光景のなんという頽廃!

夕暮れとアブサンGreenが交錯するひととき……
ニガヨモギの香りが漂う室内、パステルグリーンに変化したアブサンは鮮烈な中にほのかにナッツ系のやさしい風味をのぞかせます。
頽廃の風味に酩酊しながら迎えた最後の一篇は「忍び音に」。訳詩はなんと、この日のために玉田さまご自身が訳出して下さった珠玉。「僕たち」と訳されたみずみずしい感性が清冽に小部屋を流れてゆきます。初めて知った青年同士の愛の一篇のごとく深く深くこころに沁み入りました……
霧とリボンは今秋、ふたたび玉田さまとヴェルレーヌをテーマにコラボレーションを行う予定です。どうぞ楽しみにお待ち頂けましたら幸いです。
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最後は夜を待つ小部屋に、「月の光」を……
ドビュッシー作曲。文藝キャバレー当日の音源は
[ソプラノ:マギー・テイト/ピアノ:アルフレット・コルトー]

ヴェルレーヌとランボー以外の面々はPhotoshopで削除!に爆笑したり……♪
きっとヴェルレーヌとランボーも、アブサンを片手に頽廃の小部屋を漂っていたことでしょう。こうして、頽廃の麗しきひとときはあっという間に過ぎてゆきました……

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文藝キャバレーの後は、二階居間にて「頽廃、その後」。
爆音でボーイズ・エア・クワイアのボーイ・ソプラノやジャルスキー氏の美声に酔いしれつつ、和やかなる歓談♪
[カウンターテナー:フィリップ・ジャルスキー]
ご参加下さいました淑女の皆様に心からの敬意と感謝を。
またいつか、お洒落と気取りに上限のないちひさな文藝キャバレーを企画したいと存じます♪
☆玉田優花子さまがこの日のことを綴って下さいました。
→ちひさな文藝キャバレー印象記

蓄音機は今後、直営SHOPに常設する方向で検討中です(壁面展示メインの企画展以外の会期)。ご来店の際は往年のクラシックの名曲をぜひご堪能下さいませ。
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霧とリボン 直営SHOP“Private Cabinet”、8〜9月の営業は8月31日〜9月6日まで(木曜休)、《A Mad Tea-party〜帽子屋のティ・パーティ》を開催します。
『ふしぎの国のアリス』のマッド・ハッターがひらくアクセサリーのお茶席、お誘い合わせの上、どうぞお出かけ下さいませ。詳細はおって告知致します。
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