霧とリボン
愛書家のための小間物ブランド《霧とリボン》のブログ
DATE: 2016/05/23(月)   CATEGORY: 直営SHOP
音色に染まった菫色の写字室
晩春から初夏へ。
緑輝く頃、霧とリボン 直営SHOP“Private Cabinet”はお陰様でオープン1周年を迎えました。
様々なかたちで支えて下さった方々に心より御礼申し上げます。

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1周年の記念展示として開催したイースター企画展《スクリプトリウム II〜音楽を記述する試み》。音楽の言葉(詩と楽譜)をカリグラフィ、タイポグラフィ、版画、刺繍で表現した美術展、連日たくさんのお客様に足をお運び頂き、会期を無事終了致しました。

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修道院の写字室を意味するスクリプトリウム。

HOLONタイポグラフィ作品展《スクリプトリウム〜聖書の言葉を写し、纏う試み(2013年・森岡書店)》に続き、本展示はその名を冠した二回目の展覧会でした(“HOLON”はブックデザインを生業としている《霧とリボン》の運営事務所です)。

80年代後半に大英図書館で観た、美麗を極める装飾写本《リンディスファーン福音書》。そして同時期、音楽レーベル「4AD」を中心にUKインディ・シーンを席巻したクールなタイポグラフィ文化。思い返せば、新旧の文字芸術との衝撃的な出会いが「スクリプトリウム」の出発点であったように思います。

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大英図書館所蔵《リンディスファーン福音書》(撮影:HOLON)

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4ADレーベルのレコード盤面/デザイン:23 Envelope

以来HOLONは、装飾を重視したオリジナル・アルファベット書体制作を現代の写字法ととらえ、石川九楊氏の元での10年に渡る書の研鑽など、文字芸術をライフワークとしてきました。

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HOLON《Quire〜雅歌(2013年)》
オリジナル・アルファベット書体による欽定訳聖書(1611)写本
[写真右下]HOLONアルファベット書体集

そして2011年、主宰した《菫色の文法展》にカリグラファの佐分利史子さまがご参加。文字芸術への心強い伴走者を得て、今回のスクリプトリウム開幕へ・・・

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《スクリプトリウム II〜音楽を記述する試み》フライヤー
アートワーク&デザイン:HOLON

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佐分利史子《AVE MARIA(左・2016)》
《Violet(右上・2016)》
久保田恵子氏の同名の楽曲を題材にしたカリグラフィ作品
佐分利さま自ら手がけた教会建築のアーチの額装も相俟って、
聖所のようなコーナーに

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HOLON《Parure〜Bracelet(2016)》
久保田恵子氏の楽曲「Ash Wednesday」を題材にした
リトグラフ作品

「写字」という行為を押し広げ、「音楽を記述すること」を試みた今回。その大きなきっかけはもうひとつ、本展に「詩・楽譜・音源」でご参加下さった二組の音楽家との出会いにありました。

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ピアニスト久保田恵子

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唄うたいユニット“アネモネ”

ピアニスト久保田恵子さま主宰の「silent music」。マリア様の彫像を望む美しいご邸宅の音楽室では、折々、繊細なテーマの美術展が開催されています。
2011年のグループ展に霧とリボン主宰ミストレス・ノールもお誘い頂き、ワーズワス「ルーシー詩篇」を題材にした刺繍作品を発表しました。夭逝したルーシーへの哀悼を喪の糸に込め、墓碑銘とした一作です。

 苔むす岩かげの菫のごとく
  人の目につくこともなく。
 ——星のごとくに麗しく、ただ一つ
  輝く星のごとくに。

 ……ルーシー詩篇
  (山内久明編『ワーズワス詩集』岩波文庫)より


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ミストレス・ノール
《A Slumber Did My Spirit Seal(2011)》
英国伝統の刺繍技法ブラックワークで制作

当時、まだ面識がなかった唄うたいユニット“アネモネ”のバニラ様が、光栄にもこの刺繍にお目を留めて下さり、作品からインスピレーションを得て、楽曲《銀の針》が生まれました(アネモネ 4thアルバム『バーレルセル』に収録)。

ルーシーへの弔いとして刺した刺繍。それが一篇の歌となり、歌われることで想いは運ばれ……
ルーシーに新しい「生命(いのち)」が吹き込まれたかのように、喪の糸に光が射しました。

「いつか、《銀の針》をモチーフに、オリジナル書体を制作したいです」

バニラ様へ思いをお伝えしたことが、今回の「音楽を記述する試み」のはじまりとなりました。
久保田恵子さまからミストレス・ノールへ、そしてバニラ様へ。巡ったご縁は必然であったに違いありません。

★「銀の針」を巡る作品群★

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針と糸で構成された
HOLONオリジナル・アルファベット書体《銀の針(2016)》

本展示では、音楽をイメージして作品を制作するのではなく、音楽家が「詩と楽譜」に向き合うように、「詩と楽譜」そのものを作品化することに取り組みました。

HOLONは「音楽を身に纏う」をコンセプトに、楽譜をジュエリーに見立てたシリーズを発表。アネモネ様の楽曲は喪の宝石、漆黒の「ジェット」がモチーフ、《銀の針》書体で「銀の針」の詩を綴った一作です。

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HOLON《Black as Jet I(2016)》
アネモネ「銀の針」が題材のシルクスクリーン作品
指輪の宝石を覗くと
内側に「銀の針」の世界が広がっていた風景をイメージ
宝石を楽譜で象り、日本語の歌詞をローマ字組で綴った一作

ミストレス・ノールはふたたび、ルーシーの刺繍を。
「銀の針」によって、新しい「生命(いのち)」を得たルーシー。「六月の薔薇」と呼ばれたルーシーの薔薇色を、喪の色の中へ。針が運んだ「生命(いのち)」の物語を糸に託して……

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ミストレス・ノール《六月の薔薇へのオード(2016)》
ブラックワークのアレンジ
十字架の縦のラインを「銀の針」の楽譜とした構成

《銀の針》誕生秘話については、『復刊アプレゲール vol.2』でも取り上げて頂いております。バニラ様のインタビューとミストレス・ノールの刺繍作品及びエッセイ掲載。霧とリボン直営SHOPで販売中です。


佐分利史子さまは伝統のカリグラフィ文字をモダンな感性で翻訳、ラスティック体をアレンジした文字によるアネモネ様「end of the world」は、繊細なヴェールに彫られた現代の石碑のよう。

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佐分利史子《end of the world(2016)》

会期中は、題材とした楽曲を店内に流し、音楽を鑑賞しながら、音楽を記述した作品をご高覧頂く趣向に。同じ楽曲を佐分利史子さまとHOLON双方が作品化、その競演も本展のハイライトでした。

★久保田恵子「AVE MARIA」を題材にした作品★

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佐分利史子《AVE MARIA(2016)》
楽曲の祈りをネウマ譜に重ねて……

「Parure/パリュール」とは、同じ素材とデザインで作られたアクセサリーの一揃いのこと。ティアラ、イヤリング、ネックレス、ブローチ、ブレスレット、HOLONはこの一揃いをリトグラフ作品として発表しました。

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HOLON《Parure〜Tiara(2016)》
楽譜をティアラで象り、
詩を「スカーレット・マルタゴン(百合)」の書体で綴った
リトグラフ作品



★久保田恵子「Violet」を題材にした作品★

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佐分利史子《Violet(2016)》
ひときわ思い入れのあるオリジナル書体で
静謐な楽曲の詩を綴った作品

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HOLON《Parure〜Brooch I(2016)》
楽譜を十字架状のブローチで象り
この曲のために制作した書体「sumire」で詩を綴った
リトグラフ作品

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ミストレス・ノール《菫の夜へのオード(2016)》
花びらに見立てた矩形の造形で楽譜を構成した刺繍作品
ブラックワークのアレンジで
菫の夜へ、音色がにじんでゆく様を表現



★バッハ《マタイ受難曲》を題材にした作品★

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佐分利史子《52. Arie A.(2016)》
アルトのアリア「わが頬の涙」が題材
フラクチャー体のアレンジ
繰り返し歌われる詩を歌われる通りに記述、
花びらをイメージした文字が祈りの風景のように舞います

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佐分利史子《13. Arie S.(2016)》
ソプラノのアリア「われは汝に心を捧げん」が題材
詩の内容にあわせてイタリック体を踊らせて

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HOLON《Parure〜Earring(2016)》
アルトのアリア「憐れみ給え、わが神よ」が題材
ペテロの三度の否認による三粒の悔悛の涙を
イヤリングに見立てた楽譜に込めて……
生と死の狭間に位置する墓地の、
アイアン細工の門をモチーフにした書体
「セメタリー・ゲイツ」で詩を綴ったリトグラフ作品



★アネモネ《夢十夜》を題材にした作品★

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佐分利史子《yume toh ya(2016)》
あえて詩を綴らず、夜に浮かぶ金箔の音符に
言葉を託した一作

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HOLON《Black as Jet II》
「たゆたう黒髪」の耳元に揺れるイアリング
書体「短夜」で歌詞を綴り、ジェットの煌めきを表現した
シルクスクリーン作品

詩と楽譜を快くご提供下さった久保田恵子さま、アネモネ様。フライヤー作品の題材としたビーバーの楽譜をご提供下さった藤井晴雄さまに、心より御礼申し上げます。

★音源コーナー★

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久保田恵子さまからは菫色の装幀美しい、本展示のための限定ミニアルバムはじめ、静寂を湛えた音楽作品が届きました。その音楽は、悠久の時を経て現代まで、祈りという行為が繋がっている確かさを伝えてくれます。

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本年、結成13周年を迎えるアネモネ様は、5/29〜下北沢バブーシュカさまで記念回顧展《十三詣り》を開催されます。現代を活写する中に祈りの風景が宿る楽曲群、その歴史を俯瞰できる貴重な機会です。どうぞお出かけ下さいませ。ミストレス・ノールとHOLONによる「銀の針」作品も展示されます。

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音楽ジャーナリスト高野麻衣さまがご主宰のSalonetteに掲載下さった、本展紹介記事《21世紀の写字室》への反響も大変大きく、音楽と美術への熱情持つお客様の存在に勇気づけられた会期でもありました。

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スキの情熱で世界を変える!―― 高野麻衣オフィシャルサイト
ロゴデザイン:ミストレス・ノール

最終日、高野麻衣さまとチェリストの小林奈那子さまがご来廊下さいました。ダウランドからレディオヘッドまで、音楽への愛を語り合った煌めきのひととき。菫色の小部屋がお二人の音楽への真摯な思いで満たされ、未来への種子が蒔かれたように華やぎました。

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音楽ジャーナリストの高野麻衣さま(右)
チェリストの小林奈那子さま(左)

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霧とリボンのモデルをつとめて下さっているビリチス様
当ブランドの「O・SA・GE ブローチ」を
モダン・ロックに身につけて……



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長い時を経て、それぞれの研鑽が不思議なご縁によって結ばれ、スクリプトリウムへ。

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お越し下さった皆様、高野麻衣さまはじめSNSなどで告知にご協力下さった皆様、そして本展示に参加下さった久保田恵子さま、アネモネの皆様、藤井晴雄さま、佐分利史子さまに心より御礼を申し上げます。

遠くない未来の菫色の写字室にて、また皆様とお会いできます日を夢見つつ、感謝を込めて・・・

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アネモネ様から頂戴したカラーのブーケ



Salonette掲載展覧会レポート
大いなる賛歌
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